サンパウロから首都ブラジリア、ブラジリアで小さな飛行機に乗り換えて一時間。窓の下に、碁盤の目の形をした茶色い街が見えた。トカンチンス州の州都パルマスの街だった。トカンチンス州は、1988年にゴイアス州から分離した新しい州だ。一帯はセラードと呼ばれ、乾き痩せた農耕に向かない大地をしている。人間の手が入ることを拒み続け、最近まで開発が進まなかった。
気温は軽く四十度を越えていた。空港から車で一時間ほど走り、パルマスの街に入った。街は、ほとんどの家屋は平屋で、背の高い建物がなかった。道には車通りは少なく、人もあまり目につかない。街の看板には、ホテルなど宿泊施設のものが目に付いた。州都ということで、仕事で訪れる人間が多いのだ。ふと昔訪れたブラジリアのことを思い出した。ブラジリアは、首都の機能を集中させるため、人工的に作られた街だ。先人の喜びや怨念もなく、突然、人の歴史が始まった街。根無し草のようで、どうにも居心地が悪かったことを覚えている。パルマスは、ブラジリアを複製して質を落としたような街だった。
観光客は決して訪れないであろう、この街に脚を踏み入れたのは、理由がある。
五年前、僕はアマゾン地帯を旅した。その時、あちこちで黄金色の街の伝説を聞いた。黄金が採れるという風評が流れると、一攫千金を夢見た男たちが集まり、荒れ地は一夜にして街となる。いわゆるゴールドラッシュだ。あぶく銭を求めて働き手が集まり、仕事を求めて娼婦が集まる。行き場のない無法者が街に身を隠し、バラック造りの屋台では拳銃から非合法の薬品まで売りさばかれている。ブラジルの警察は、もともと広い国土をもてあましている。そんな街を警察が管理できるはずもない。街の掟が優先する、黄金色をした吹きだまりだ。黄金が尽きると、街は一瞬にして枯れ木ばかりの荒れ地に戻る。
幾分脚色されているにしても、現代のお伽噺のように聞こえた。僕は、この黄金や宝石を掘り探すガリンペイロ(宝石掘り、鉱夫)に惹かれた。つてを探すと、サンパウロにいる知り合いが、トルマリンが出る鉱山をトカンチンス州に持っていた。僕は、彼が鉱山を訪れる時に同行させてくれと頼んだ。ところが、僕がブラジルに滞在する時期と、彼が鉱山に出掛ける時期とがなかなか合わなかった。2002年の秋になって、ようやくトカンチンスの地を踏んだのだった。


  トカンチンスでの写真を掲載しています。

 

 

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