四年前のことだ。
97年のクリスマスの日、ブラジルのサルバドールという街にいた。
サルバドールは最初の首都だ。街を建設するために、アンゴラなどポルトガルが植民地としていた国から、沢山の黒人が運び込まれた。街にはその影響で、未だにサンパウロやリオと違って黒人が多い。
護身術でもあった踊り、カポエイラはサルバドールの黒人の間で発展した。もっともアフリカ色の濃いブラジルの街といえる。ブラジルの作家ジョルジ・アマードは、サルバドールに住み、大地の壮大な物語を紡ぎ出している。雰囲気のあるいい街だ。
さて、サルバドールの街外れにボンフィンという古い教会がある。
教会の中には、脚や手の形をした模型がところ狭しと吊してある。自分の身体の悪いところを教会に置くと良くなると信じられているのだ。ボンフィンがブラジル中で有名なのは、そうした治癒の能力と、テープだ。
フィタ・ド・ボンフィン(ボンフィン・テープ)と呼ばれるリボンを手首に巻く。
巻く際、三つの結び目を作るのだが、一つつづに願いを込める。テープが自然に切れる時、願いが叶うと言われている。
僕はこの教会の前の男にテープを巻いてもらった。
赤いテープはすぐに細くなり、紐のようになった。じきに切れると思っていたらなかなか切れない。寝ている時も、仕事をしている時も、プールで泳いでいる時も、サッカーをしている時も、シャワーを浴びている時も僕の右手首には紐がついていたのだ。
そのテープが、今日切れた。
着替えをしていた時、ジーンズに引っかかって切れた。
どんな願いを掛けていたのだろうと記憶を探った。
一つは覚えている。
自分の名前で本を出すことだ。これは叶いつつある。
残り二つは何だったのか、どうしても思い出せない。
今度、ブラジルに行った時に、また巻いてもらおうと思っている。
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