豊田市で行われている、ハンドボール男子の北京オリンピック予選の取材ため、先週の土曜日から名古屋に滞在している。
残念ながら、昨日日本代表はクウェートに敗れてしまい、五輪出場権を得ることができる、一位通過が遠ざかってしまった。
NHKのBSが中継していたので、試合を見た人も少なくなかっただろう。日本代表は良く戦ったが
、ミスもあった。力不足で負けてしまった、ように見えたかもしれない。今回の予選のレポートについて、sportivaのweb版や、http://www.ninomiyasports.com などで書くことになっている。
それとは別に、この豊田市の体育館で起こった、極私的な出来事を書いておくことにする。
ハンドボールはコンタクトスポーツである。ルールの取りようによっては、解釈の幅はかなり大きい。時に、身体をぶつけた絶妙なディフェンスは、審判によってはファールと判断されることもある
。
審判に判断の幅を与えられているスポーツこそ、スポーツの原点である公平性が最も問われると言ってもいい。
昨年、クウェートは、バンコクで行われた世界選手権のアジア予選で、露骨に審判の笛を操作して、ハンドボールを知らないタイの人間からも、罵声を浴びた(http://www.liberdade.com/tazaki0602.html)。ただ、クウェートは弱いチームではない。恐らく、
普通の“笛”で試合をして、日本とはほぼ互角の力がある。
この試合の前半、審判の笛はややクウェート寄りではあったが、誤差の範囲内と言ってもよかった
。前半を終わって同点、勝負は後半に持ち込まれた。
後半はイラン人審判たちの芸術ともいえる、“見事な”試合だった。
ハンドボールに詳しい人間であれば、この競技の審判基準に幅があることを知っている。許容範囲内に見える誤差に見える双方のファールであるが、そのファールを与える時間帯の重要性が全く違っていた。
簡単に言うとこういうことだ。
五点差まで開くと、クウェートのファールをとって、日本に勢いを与えた。三点差になると、日本の勢いを止めた。
日本は、勝負のあやとなる瞬間でファール、もしくは退場者を出した。その後、点数差が四点程度離れ、試合が落ち着いている段階で、クウェートは、同じように退場者を出し、一見公平なように見せた。
後半、日本がクウェートに詰め寄ったのは二点差までだった。イラン人審判を見ていると、偶然の突発的な出来事で試合が変わる、一点差までは近づけないという強い意志が感じられた。そして、最後は、二点差。一見僅差で試合を終えた。
試合終了間際、クウェートの選手がレッドカードで失格処分になった。失格処分になると、コートの脇にあるブースに入って、試合終了後のドーピング検査を待たなければならない。素晴らしいディフェンスをファールと判断され、失格になっていた永島は静かにブースの中で座っていた。ところがこの失格になったクウェートの選手は、日本の関係者に連れられてブースの近くまで行ったが、「ここで試合を見てもいいだろう」とコートサイドに立ち、中に入ろうとしなかった。
バンコクの時と同じようにクウェートの選手は規則を守る気はなく、それを厳しく罰することがで
きない、日本の運営を軽んじているのがありありと見えた。
その選手は僕の前に立とうとしていので、日本語で「早く中に入れよ」と怒鳴った。
すると、すでに退場になっていた選手が、血相を変えて、ブースの中から飛び出してきて、僕の前に立ち英語で言った。
「お前、あいつに何と言ったんだ」
僕は、手を上に上げて指をすりあわせた。
「お前たちは審判にいくら払ったんだ、と言ったんだよ」
選手は、思ってもいない返事だったのか、悔しそうな顔をしてきびすを返した。
試合終了後、僕とその選手のやり取りを見ていたのだろう、韓国の関係者が僕のところにきて、ペ
ットボトルを投げる振りをして、目配せした。
その男には見覚えがあった。バンコクで韓国がクウェートとの試合で、不利な判定をされているのに怒り、飲み物をコートの中に投げつけて試合を止めた男だった。
あんな試合をされて、どうしてペットボトルを投げたりして、抗議しなかったのだという意味だったろう。
「クウェートの奴らは、気が狂っている」
コートサイドで試合を見ていたUAEの選手は、僕と目が合うと、顔をしかめ
た。
あの試合を見て、審判が操作されていると憤った人間は少なかったかもしれない。ただ、アラブの
“定石”を知っている人間は、どんなに巧妙であっても、操作されていることを見抜いていた。
そしてこう思っただろう。
西アジアの審判たちは、試合を操作する“腕”を上げている。今後ますます厄介になる、と。
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