ハンドボール界で「中東の笛」と言われてきた、中東の国々(及び韓国)による、審判操作のことを初めて聞いたのは、フランスで元日本代表の田場裕也と会った、03年11月のことだった。 ニームにある彼の自宅で、ワインを飲みながら、試合の途中に王族がコートに降りてきたり、審判が交代させられることがあると田場は話した。審判の操作というのは、アジアのサッカーでもあった話ではあるが、それが21世紀になった今でも、存在していることに驚いた。
いや、正確にはその時は半信半疑だった。
実際に「中東の笛」を見たのは、昨年の二月のことだった。
単行本「W杯三十年戦争」の書き下ろしの缶詰がてら、軽い気分でバンコクに出かけていた。世界選手権出場権をかけた大切な試合で、明らかに審判は、偏った笛を吹いていた。ほとんど観客のいないスタンドで僕は憤り、身体が熱くなった。こうした不正が横行していることを僕が知らなかったこと 、日本で全く報じられていなかったことにも、怒りを感じた。
→ 週刊田崎 2006年2月
『VS.』 (月刊バーサス、光文社) 2006年04月号にも以下のような記事を書いた。
***************************************************************************
審判の「買収」に泣いたハンドボール日本代表。
「バンコクの悲劇」を繰り返すな!
文/田崎健太
勝負とは繊細なものだ。些細なプレーで試合の流れが一気に変わることもある。それが人為的に、そして断続的に起こされたとしたら、それに抗うことは難しい。
2月にバンコクでハンドボールのアジア選手権が行われた。日本代表はフランスでプレーする田場裕也、年始の肉体バラエティ番組で、アスリートナンバーワンとなった宮崎大輔などを揃え、優勝を狙える力があると考えられていた。
初戦のイラン戦、日本代表は立ち上がりこそ動きが固かったが、次第に本来の力を発揮し、前半を1点リードで終えた。
しかし、後半が始まると試合の様子が一転した。ハンドボールはある程度のボティコンタクトは許されている。時にファールを覚悟で相手を押さえることもある。判定には幅があると言ってもいいが 、この日UAEの審判の笛は「幅」とは言えなかった。
日本がイランの選手にぶつかると反則になった。一方、3秒、3歩しかボールを持ってはいけないはずだが、イランの選手にはそれは適用されなかった。反則には2分間退場というルールがある。些細な反則で日本の選手は退場させられ、一人復帰する度にまた一人と退場させられた。守備に力を割いていた田場を含めた二人がレッドカードでコートからも退場させられた。明らかに審判は“買収”されていた。宮崎大輔は、反則を取られないように遠目から何本もシュートを決めた。だが、後半のほとんどを一人少ない選手で試合することになり、選手たちの動きは次第に鈍くなっていった。日本は3点差で敗れた。
石油を産出し、懐の豊かな西アジアの国を相手に日本が不可解な笛を吹かれたのは初めてではない。
あまりに露骨な「行為」に日本ハンドボール協会副会長である市原則之はIHF(国際ハンドボール連盟)の理事会に動議を出そうとしたことがあった。
「アジアでの試合では不誠実な笛が横行している。欧州など第三国の審判を使うべきだ。オリンピック連盟に提訴することも考えている。このままだと五輪競技から外される可能性もあるだろう」
しかし、この動きを事前に察知した、エジプトのハッサン・ムスタファIHF会長は市原の動議を強引に押さえ込んでしまったのだ。
国際大会では通常、ファール数、得点が記されたマッチレポートが発行される。ファール数を見るだけで不正な試合かどうかがすぐ分かる。しかし、この大会では一切マッチレポートは出なかった。
ハンドボールはマイナースポーツである。マイナースポーツにとってオリンピックに出るか出ないかというのは競技の存亡に関わる。日本の選手たちは自分の人生を左右する試合で、不可解な笛に泣いてきた。北京五輪予選が来年予定されている。選手たちのぶつけどころのない悲しみと怒りを繰り返してはならない。
***************************************************************************
そして、今年の九月。
愛知県の体育館、日本の本拠地で、彼らは厚顔無恥にも同じ事をやった。日本は完全になめられてお り、毅然とした態度をとらなければならない、そんな話をハンドボール関係者とした。
→ 週刊田崎 2007年9月
→ http://sports.nifty.com/sportiva/clm_other/85.jsp
→ http://www.ninomiyasports.com/xoops/modules/news/article.php?storyid=7557
そして、昨日。
IHF(国際ハンドボール連盟)が、男女のアジア予選のやり直しを命じた。僕自身も想像していなかった結果だった。
協会の市原さんたちの働きかけがようやく実を結んだ形になる。
もちろん、五輪のアジア枠はただ一つ。明らかに韓国は日本よりも力がある。予選で二位に入れば、 世界最終予選に回ることができるが、ハンドボール先進国である欧州の国々に混じって、勝ち抜くこ とは相当難しい。アジアで勝たなければならない。
ハンドボール界では何かあると“協会”のせいにする習癖がある。
協会は結果を出した。
次は選手の番だ。
|