今日は、東京国際フォーラムで行われた写真家、大森克己氏の講演会に出かけた。
大森さんとは、週刊誌の編集をしている時に知り合った。昨年のキューバの本の出版パーティにも来てもらった。僕の尊敬している写真家の一人である。
今回の講演会は写真集『Very Special Love』や雑誌『Switch』で連載している『青空』で掲載した写真をスライドで映写しながら大森さんが説明を加えた。その中でいくつかの写真は、さすがと思うものだった。一応、僕も写真は撮る。キューバに一緒に行った写真家の横木さんに褒められたこともあり、自信がなくはない。しかし、今回見た写真の幾つかは僕は絶対に撮れないと思った。いや正確に言うと撮る執念はないと感じた。
昨日、埼玉で行われたワールドカップの準決勝ブラジル対トルコ戦の帰り。僕は大宮から京浜東北線で秋葉原、秋葉原から総武線に乗り換えようとした。秋葉原の駅で、トルコの赤と白の国旗を顔に描き、国旗をマントのようにまとった外国人男性二人が迷っていた。英語で行き先を尋ねると、一人は市ヶ谷、一人は新宿に向かうと答えた。僕と同じ方向なので、付いてくるように言った。男たちはかなり酒を飲んでいるようで目が泳いでいた。
「今日は勝てたんだよ」
一人の男は泣いた後のようだった。
僕は意外だった。トルコは確かに強い国だが、トルコの人々が本気でブラジルに勝てると思っているとは思っていなかった。
「ブラジルは大したことはなかった」
ともう一人の男は悔しそうに唇を噛んだ。 決勝トーナメント一回戦て日本はトルコに0対1で惜敗した。しかし、勝たなくて良かったと思った。日本代表がもし勝ち抜いていて、この日ブラジルと準決勝で当たったとする。そこで、1対0で負けたりしたら、日本は「善戦」と大騒ぎするだろう。悔しいどころか大喜びするだろう。
正直なところ、僕だって同じだ。
だから、トルコが僅差とはいえ、日本に勝ったのは正しかったのだ。やけ酒をあおって泣いている彼らの姿は、どんな言葉を尽くすよりも雄弁に語っていた。
僕は写真を撮りたいと思った。しかし……。ワールドカップのスタジアムは妙に警備が厳重だ。入り口のX線検査では、カメラをいちいち鞄から取り出さなくてはならない。そのため、いつしか銀塩カメラを持ち歩かないようになっていたのだ。仕方がないと僕は諦めた。
もちろん僕は物書きで、写真家の大森さんに張り合う必要はない−−のだが性分として悔しく思ってしまうのだ。
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